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対談

対談 リーダー2人に聞く、
JICグループの投資活動
【前編】

2019年12月、横尾敬介新社長のもと、産業革新投資機構(以下「JIC」)の新体制が発足しました。
翌2020年7月には、傘下に、主にベンチャー・グロース領域への投資を行うJIC VGIを設立し、
鑓水英樹社長のもとで投資活動が進められています。
横尾社長と鑓水社長に、官民ファンドの代表としての思いや事業の進捗などについて、改めて聞きました。

横尾 敬介

株式会社産業革新投資機構 代表取締役社長CEO

1974年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。米国駐在を経て、資本市場、システムを歴任し、新光証券の発足に尽力。
2007年旧みずほ証券取締役社長。新光証券との合併後、2009年現みずほ証券取締役社長、2011年同社取締役会長。
2015年経済同友会 副代表幹事・専務理事。2019年より現職。

鑓水 英樹

JICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社 代表取締役社長CEO

1991年三井生命保険(現大樹生命)入社。プライスウォーターハウスクーパース、あおぞら銀行を経て、2009年産業革新機構(現JIC)入社、幅広いステージ・産業領域においてスタートアップへの投資育成業務に従事。2020年より現職。

民間の知恵や力を引き出し、活用していく

ー 官民ファンドの意義とは。

横尾 2年前、JICの社長を引き受けるにあたって、改めて「官民ファンド」とは何かを自分なりに考えてみました。
「官民ファンド」と言うと、政府による出資を受け、公的な資金を使っているという面だけが強調されますが、一方で、私としては、それだけではなく、官民ファンドの「民」の部分、すなわち民間の知恵や力を引き出し、活用していく、という面が大事ではないかと考えています。
民間の人材が持つ知見、経験、ノウハウを結集し、投資という手段で政策目的を実現する。そして、民間からのリスクマネー供給を促していく。このような循環を作っていくことが官民ファンドとしての最大の責務ではないかと考えています。

ー 最初から民間に任せれば良いという意見もあるが。

横尾 私は、日本の産業金融、投資の世界に長く身を置いてきましたが、その経験からも、民間だけでは十分にリスクマネーを供給できていない分野があるのは事実です。
例えば、リスクが大きく投資回収に時間がかかる創薬や研究開発型のベンチャー企業の成長ステージ、市場や産業が確立してない新分野への進出、グローバルな事業再編や統合に向けたM&Aなど、残念ながら民間のリスクマネーの厚みが十分でない分野があります。
このような分野への民間資金の呼び水として、官民ファンドがリスクマネーを供給し、次世代の産業を担うような企業を育て、産業の競争力を底上げしていくという考え方は、日本の将来を考えたとき、極めてまっとうなものではないかと思います。

日本のスタートアップエコシステムは、
もう一段の成長ステージにある

ー JICは基本的に企業に直接投資をおこなわない。直接投資を担うJIC VGI設立へ。

横尾 JICは、原則として、その傘下に組成する様々なファンドによる投資を通じて、我が国の産業競争力の強化に貢献するという目的の達成を目指します。2020年7月に、そのファンドの第1号として、JIC VGI(VentureGrowth Investments)を設立し、ファンドの運用会社となるJICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社の代表取締役社長には、鑓水さんに就任してもらいました。

ー JIC VGI社長就任時の思いとは。

鑓水 思いがけないコロナ禍での船出ではありましたが、横尾社長の仰る通り、JICの設立趣旨、ミッション、ビジョンは当初より明確でした。ファンドの成否はキャピタリストの成長と能力発揮がすべてです。そのためには、どのような企業カルチャーを醸成すべきか、組織体制や最適なオペレーションはどうあるべきかを、キャピタリスト目線で考えながら就任させて頂きました。もちろん、これがベストというゴールはありませんので、メンバーと共に試行錯誤を繰り返しながら日々改善を続けています。

ー 日本のベンチャー投資の現状をどのように見ているか。

横尾 シード・アーリー段階には比較的リスクマネーが流れていて、上場前等のグロース段階でのリスクマネーが不足している、ここに投資を厚くするという仮説を立ててVGIを設立しました。グロース段階でのリスクマネーが不足しているという仮説は正しかったのですが、改めてJICで調査してみると、意外に、シード・アーリー段階でも、まだまだリスクマネーが不足しているということがわかってきました。

鑓水 業界関係者の長年のご尽力の賜物ですが、近年のスタートアップ投資額の増加傾向やコロナ禍でも力強いIPO、ファンドの大型化や海外ファンドや機関投資家の参入が続き、人材の流動性が上昇するなど、日本のスタートアップエコシステムは、もう一段の成長ステージに入ったと認識しています。日本のGDPの規模を考えれば、成長余地が大きい魅力的な産業です。一方で、1号ファンドを運用させて頂く中で、グロースマネーのニーズが高いことは仮説通りに検証できましたが、同時にシードアーリーステージや産業領域毎にリスクマネーの偏りがあることも確認できましたので、現在社内で対応を検討しているところです。