TOPICS

地方に眠る
技術シーズから、
グローバルユニコーンを
【後編】

産業革新投資機構(以下JIC)は、民間だけでは投資対象になりにくい分野へのリスクマネーを供給するとともに、民間投資資金の呼び水となることで、リスクマネーの好循環を創出することを目指しています。 今回は、JICの久村俊幸CIOと秦由佳ファンド投資室長が、JICとして民間ファンドへのLP投資の第1号となったBeyond Next Ventures株式会社の伊藤毅代表取締役社長CEOとスタートアップやディープテック領域のエコシステム、産学連携の課題や展望について語ります。

伊藤 毅/Tsuyoshi Ito

Beyond Next Ventures株式会社 代表取締役社長CEO

2014年8月にBeyond Next Ventures 株式会社を創業し、代表取締役社長に就任。現在、出資先企業の複数の社外取締役および名古屋大学客員准教授・広島大学客員教授を兼務。内閣府・各省庁のスタートアップ関連委員メンバーや審査員等を歴任。

久村 俊幸/Toshiyuki Kumura

株式会社産業革新投資機構 取締役CIO

1983年、東京海上火災保険株式会社(現 東京海上日動火災保険株式会社)に入社。同社、投資部運用開発グループを経て、2002年、東京海上アセットマネジメント株式会社 プライベート・エクイティ運用部長に。2019年より現職。

秦 由佳/Yuka Hata

株式会社産業革新投資機構 ファンド投資室長

ニッセイアセットマネジメントや野村アセットマネジメント、野村プライベート・エクイティ・キャピタル(NPEC)において、国内外のプライベート・エクイティ投資分野で中心的な役割を担う。2020年より現職。

国内のスタートアップのグローバル展開に対する支援が必要

ー 国内のVCが海外のVCを巻き込むような連携を

海外のディープテック分野のエコシステムと比較して、仕組み作りなどで足りない部分はどこにあるとお考えでしょうか。

伊藤 シード・アーリーステージにおける資金調達環境は整ってきましたが、ステージが上がった時に10億円単位で資金を調達するような環境が、現在の国内の投資家だけではまだ不十分だと感じています。例えば国内VCのファンド規模の拡大と多様化や、海外の投資家からスタートアップが資金を調達する、あるいは、既存の株主であるVCが海外の投資家から資金調達をサポートするというようなグローバルな活動がもっと広がるとよいと思います。

久村 技術開発型のスタートアップでは、解決しようとする課題をグローバルな視野で考えているのでしょうか。

伊藤 おっしゃる通りです。ディープテック分野のスタートアップには、技術オリエンテッドなプロダクトが多く、これらは世界に共通するものです。そのため、世界に向けても展開しやすいとも感じています。

久村 JICとしても、国内のスタートアップのグローバル展開を支援しなくてはならないという問題意識をもっています。同時に、ディープテック分野のスタートアップがいわゆる死の谷を越えるためには、海外の資金を活用する必要があるでしょう。起業家の目線がグローバルに向けられているのであれば、VCもグローバル目線でサポートできるように、国内のVCが海外のVCを巻き込むような連携を進めることができれば良いなと思います。

VCファンドとPEファンドとの連携についてはどのように考えていますか。

BNVが投資活動を行うインドにて

伊藤 1号ファンドのレイターステージに近い投資先が、海外PEファンドからの資金調達を進めています。 ディープテック領域は、商品の開発から、社会実装、事業としての黒字化までに、場合によっては数百億円規模の外部資金が必要になるため、PEファンドなど、従来と異なる資金の出し手とシームレスに結び付けていくことが重要だと感じています。

ー JICは資金供給だけでなく、良きパートナーとなることを目指す

久村 JICによる民間ファンドへのLP投資には、3つの視点があります。1つは政策課題に合致しているか、2つ目は民間資金が不足している分野であるか、3つ目は一般的な投資評価基準です。 さらには、投資先ファンドの投資案件に関しても、革新性があるか、成長性があるか、Exitできるかなどの投資基準を満たすようお願いしています。 このように、民間のLP出資者とは異なる点もあり、2号ファンドでJICが入ることに対して期待も不安もあったかと思います。投資から1年あまり経過しましたが、感じたことを聞かせてください。

伊藤 JICの出資後に、3つの点で成長できたと感じています。組合契約、LPに対するレポーティング、そして投資先の財産評価に関する点です。 LPに対してどのようなレポートをすべきか、我々自身も学んできましたが、JICのサポートのおかげで、組合契約の契約書の内容をグローバルスタンダードに近いものにできました。 レポーティングに関しても、さまざまな示唆をいただいて、将来、海外の機関投資家からの資金を目指す際にも十分耐えられる体制を築きつつあると思います。 投資先の財産を、ファンドの決算においてどう評価するかは重要ですが、そのプロセスやガバナンスに関しても助言をいただき、成長を実感しています。

嬉しいフィードバックをありがとうございます。JICとしても、契約関係やファンド運営の課題も含めて、一緒に考え、一緒に解決することで、将来の機関投資家からの資金流入の呼び水となることを目標としてきました。BNVが大きく成長していることを我々も実感し、大変嬉しく思っています。

久村 もうすぐ次のファンドの組成に入ると思いますが、より大きな資金供給をしていくという意味では、国内の機関投資家からの受託を目指すのでしょうか。

伊藤 1号ファンド、2号ファンドのパフォーマンスをしっかり出していくことに注力しつつ、早ければ2022年末頃までに次のファンドの組成を目指しています。ディープテックのシーズ段階から継続的に支援できる規模感を追求し、国内外の機関投資家の方々に賛同いただけるよう、1号、2号でのパフォーマンスで与信しつつ、サイズも大きくしていけたらと考えています。

久村 2号ファンドは投資活動を順調に進め、チームの拡充も進められていますが、次の3号ファンドでは機関投資家をはじめ、できれば海外の資金を入れて、LPのネットワークをより広げていかれることを期待しています。

JICは、資金を供給するだけでなく、良きパートナーとしてのLPでありたいと思っていますので、次のファンドの体制など、構想に関しても一緒に考えていけたらと思います。

連携の輪を広げ、産学連携の活性化を

ー ディープテック領域からグローバルユニコーンの創出を

久村 国内で産学連携の全般を見ているところは限られており、JICは投資のハブとしての役割が果たせればという議論をしていますので、現場をよくご存知の伊藤さんの知恵をいただけたらと思います。

伊藤 地方大学からは、地元での資金調達によるファンド組成が限定的であることに加え、資金面以外でも大学発ベンチャー支援の経験が限られていることもあり、BNVと連携したいというご相談をいただいています。このような連携を通じて、地方の大学に眠るシーズに対し、BNVからは、事業化に向けた資金や人材面でのリソースを提供することで、地方での産学連携を活性化できるという実感もあります。是非、JICとも連携させていただけたらと思っています。

BNVが目指しているものとJICが目指しているものが、しっかりと合致していると改めて実感しました。 ディープテックからグローバル企業を作っていく、あるいはグローバルユニコーンを作っていくという大きな目標に向かって、JICとBNVの連携を更に深め、産学連携を担う他のファンドにも広げていけたらと思っています。今後も良きパートナーとして、よろしくお願いします。