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対談

対談 日本の
スタートアップ・
エコシステムの
発展のため、
DE&I推進を

JICグループのDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)推進が本格稼働します。DE&I推進に対する想いや課題感などについて、JICの横尾敬介社長、秦由佳ファンド投資室長、鈴木良枝ファンド管理室長が語り合いました。

日本は極めて異例

秦由佳 ファンド投資室長(以下「秦」) JICの社長に就任する前から、横尾さんはDE&Iに取り組んでいるのですよね。

横尾敬介 代表取締役社長CEO(以下「横尾」) 20年ほど前からDE&Iに取り組んでいますが、2019年12月にJICの社長に着任し、日本のファンド業界は男性社会だと改めて感じました。多様性にはジェンダー以外の要素もありますが、最も身近で人口が多い女性から始めようということで、まずは男女比を50/50にすること、意思決定を行う女性を増やしていくことが重要だと考えています。DE&Iはエコシステムに関わることであり、JICのミッションである日本のスタートアップ・エコシステムの発展のために必要です。

鈴木良枝 ファンド管理室長(以下「鈴木」) DE&I推進では、組織のトップの意識を変えるのに時間がかかると聞きます。やらなければというプレッシャーではなく、トップ自ら必要だと信じてコミットしていくケースは少ないのではないでしょうか。

横尾 初めて海外に出た時の体験がDE&Iに対する考え方に大きな影響を与えています。ニューヨークに赴任し、最初にお会いした投資銀行のマネージングディレクターが女性でした。その時のことは今でも覚えています。女性が丁々発止とやり合う様子を初めて見ました。国際会議に裏方として参加した時も、日本以外は総裁や頭取の4割ほどが女性で衝撃を受けましたが、世界では当たり前のこと。日本が極めて異例だと気付かされました。

海外ファンドのLP出資に長年携わってきましたが、海外では、マネジメント層に女性がいることも珍しくはありません。一方、日本では男性一色になることが多く、カンファレンスなどの会場にも女性の姿はほとんど見えません。どのように女性を増やしていくのか、大きな課題だと思います。

海外の投資家を呼び込むことで多様な発想を

横尾 日本のスタートアップ・エコシステムにおける多様性の欠如が、スタートアップやユニコーン(企業価値が10億ドル以上となる未上場スタートアップ)が少ない原因であるのは明らかです。フランスにある世界最大規模のスタートアップ集積施設「STATION F(ステーションエフ)」は、多様性が可能性を広げることを実感するところです。中学卒業後に通信関係の会社を起こして成功した人もいます。視察に訪れたことがありますが、STATION Fの責任者は教育システムを変えたことがフランスのスタートアップ・エコシステム強化の成功の秘訣だと力説していました。

鈴木 教育の多様化という意味では、投資先のファンドの中にも高校を中退して仕事を始めた女性キャピタリストがいらっしゃいます。PE・VC業界は男性が多数を占めることもあり、女性の発言は印象に残りやすいと、彼女は女性であることをポジティブに捉えています。そういう方が活躍するようになると、PE・VC業界全体の意識も変わってくるのではないでしょうか。

横尾 ファンド投資ではグローバル標準を意識して働きかけをしてもらっていますが、多様性の面でもグローバル標準にならないと太刀打ちできません。多様性により異なる発想が生まれ、国や産業が活性化されます。アメリカのGAFAも然り。性別や学歴など関係ない多様な世界で様々なことが活性化される中で、何かのヒントが生まれることがあるのだと思います。

LP投資を通じて日本のエコシステムを見ていますが、日本独特の文化や商習慣に偏った中でエコシステムが形成されているとつくづく感じます。アメリカではジェンダーだけでなく、人種も含め、様々な人のミックスであることが強さの源になっています。スタートアップも取締役会に多様性があることが強さに繋がるのではないかと考えたことが「ゴー・グローバル」の根源です。日本のスタートアップの海外展開支援はもちろん重要ですが、海外の投資家を呼び込むことで多様な発想を取り込むことが最大の狙いです。様々な国の投資家が日本人と並んでスタートアップの取締役会に入ることで、様々な価値観に基づく意見や支援が得られ、それが最終的にスタートアップを強くすることに繋がると思います。

やりたい仕事に手を挙げなかったのは間違っていた

横尾 DE&Iは文化や価値観を変える話なので時間がかかりますが、どこかで始めなければいけない。JICが官民ファンドとしてDE&Iを推進していくことは日本の活性化にも繋がると信じています。個人的にも、ライフワークとして一生取り組んでいくつもりです。

女性活躍推進の面では、女性を会社に取り込んでいくことが第1段階だと感じます。日本の企業は新卒採用の時点で男女比が偏っているので、その僅かな候補の中から管理職や役員になっていく女性を見いだすのは至難の業です。

鈴木 女性がプロモーションに対して消極的だという実態もあると思います。事務局を務めているPE業界の女性の会でアンケートを行ったところ、女性の活躍のために必要なものとして「フェアなアサインメント(仕事の割り振り)」という回答がありました。特に子育て中の女性に対しては「大変だろうから」と上司が簡単な業務を担当させる傾向があります。

横尾 それは正にアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)ですね。

鈴木 女性側も「この仕事をしたい」と自ら手を挙げることが必要だと思います。公平な評価でないと思った時もきちんと伝え、プロモーションのために必要なことを確認し、それを実現できれば公平に評価してもらえるよう、自ら発信することが必要です。私自身、子育て中に上司や同僚に迷惑をかけるのではないかと、やりたい仕事に手を挙げられなかったのですが、それは間違っていたと今は思っています。

海外で投資の世界で男性と同じように活躍する女性は強いプロ意識を持っています。DE&IのEは「公平性」を意味しており、女性は男性のように働かなくてよいということではありません。女性自身がプロフェッショナルとして仕事に取り組むことを前提に、そのためのプラットフォームを用意することが大切だと思います。

横尾 正にその通りですね。日本には、そのプラットフォームがなかった。環境も不十分であったところを改善していこうということです。

お互いに議論していく中で新しい発想を

横尾 年明けから体制を作り、JICグループとしてDE&I推進に本格的に取り組んでいくことになります。グループ各社の業務執行取締役で構成するDE&I推進委員会や、グループ内の職員による推進チームを設置し、具体的な取り組みを進めていきます。また、DE&I推進を重要な経営戦略と位置付け、行動規範等に盛り込み、研修などを行う中で、一人ひとりが自分事としてDE&Iを進めていければと思います。

鈴木 既にヒアリングが始まっていますが、投資先のファンドや、その投資先のスタートアップの中にもDE&Iに積極的に取り組まれているところがありますので、ベストプラクティスとして参考にしつつ、JICグループのDE&Iの向上に繋がればよいなと思います。また、ESG推進担当として、責任投資原則(PRI: Principles for Responsible Investment)に署名し、ESGへの取り組みを進めていく中で、その重要な要素となるDE&Iを積極的に推進していきたいと思っています。

横尾 VCへの支援を通じた働きかけも重要です。DE&Iを推進するVCへの評価などに関する海外機関投資家へのヒアリングなども参考にしながら、出資先のVCにキャピタリストの比率やDE&Iに対する取り組みの状況に関する報告を要請するなど、気運を高めていきたいと思います。また、DE&Iを投資判断にどのように組み込んでいくかについても議論していきたいと思います。JICグループのネットワークを生かして、業界全体への情報発信や働きかけにも取り組んでいきましょう。私が気付かないこともあると思いますので、皆さんからの忌憚のないご意見を、引き続き期待しています。お互いに意見を言い合い、議論をしていく中で新しい発想が生まれていくはずです。

日本のPE・VC業界におけるDE&Iの推進について、政府系のLP投資家であるJICが担う役割に海外も注目しています。JICが先陣を切って取り組むことで、業界全体でさらにDE&I推進の機運が高まるのではと信じています。まずは、LP投資家として投資先GPとしっかり対話を続けていきたいと考えています。GPに対してKPIを設定するなどの要求を行うことは簡単ですが、それをGPが実現することは大変なことだと思います。どのように課題をクリアしていけば良いのか、GPにとっての良きパートナーとして一緒に頭を捻りながらその実現に向けて共に歩んでいければ嬉しいです。

鈴木 組織として取り組むからには、全体のパフォーマンス向上に資するものであることが大事だと思います。日本の成長が長く停滞してきた要因のひとつに、同質性が極めて高い日本の組織の問題があると考えており、DE&I推進により異質な意見を建設的にぶつけ合い、生産性向上に一人一人が貢献したいと考えるカルチャーの醸成が求められると思っております。私が育児をしながら仕事を続けてきた当初から比べると、現在は隔世の感がありますが、まだまだ改善すべきところはたくさんあります。DE&Iのような「重要だが緊急でないこと」は後回しにされる傾向がありますが、長く時間のかかることだからこそ、着実な取り組みをしていきたいと思います。官民ファンドであるJICだからこそできることもあるはずで、今後の伸びしろとして、取り組みを楽しみたいですね。